
その電話、本当に電力会社からですか?
ある日突然、「ブレーカーの点検にうかがいます」という電話がかかってきたら、あなたはどう対応しますか?
「電力会社からの連絡なら断るわけにはいかない」——そう考えて訪問を受け入れてしまう方が後を絶ちません。しかし実際には、電力会社や委託業者を装って自宅に上がり込み、高額な分電盤交換を契約させる「点検商法」が全国で深刻な問題になっています。
国民生活センターへの相談件数は2024年度に激増しており、被害者の約8割が70歳以上です。「自分は大丈夫」と思っている方にこそ知っていただきたい、点検詐欺の実態と対処法をお伝えします。
数字で見る深刻さ——2024年度は前年の10倍超
国民生活センターの集計による年度別の相談件数は以下の通りです。
| 年度 | 相談件数 |
|---|---|
| 2020年度 | 10件 |
| 2021年度 | 19件 |
| 2022年度 | 14件 |
| 2023年度 | 39件 |
| 2024年度 | 461件 |
2023年度までは年間10〜40件程度で推移していた相談が、2024年度は11月末の時点で461件と異常な急増を見せています。組織的に活動する業者の存在がうかがえる数字です。
実際、分電盤の点検商法をめぐっては、クーリング・オフの記載がない契約書を渡した疑いで書類送検された事例も報道されています。
こうやってだまされる——詐欺の「4段階」を知っておく
点検商法には決まった流れがあります。パターンを頭に入れておくだけで、いざというとき「おかしい」と気づけます。
第1段階:電力会社を名乗って連絡してくる
「○○電力の委託で、お宅のブレーカーを点検に回っています」——こんな電話や訪問が始まりです。実在する電力会社の名前を出すことで「公式な連絡だ」と信じさせるのが狙いです。
見抜くヒント: 担当部署や依頼元をはっきり言わない、折り返し先が携帯番号だけ、「今日これから行けます」と急な日程を提示してくる。
第2段階:「無料点検」で家の中に入る
「すぐ終わります」「分電盤を見るだけです」と軽いトーンで室内に入ろうとします。目的は点検ではなく、家に入って交換工事の話に持ち込むための足がかりづくりです。
見抜くヒント: 事前の書面案内がない、身分証の提示がない。正規の点検ではありえないことです。
第3段階:恐怖で冷静な判断を奪う
分電盤を見た後、「焦げている」「漏電して火事になる」「危険な状態だ」と畳みかけてきます。さらに虚偽の説明を交えるケースも報告されています。
よくある嘘:
- 「分電盤は15年で交換が法律で義務づけられている」→ そのような法律はありません
- 「漏電火災は火災保険が適用されない」→ 事実ではありません
第4段階:「今すぐ」と契約を迫る
「今日なら割引できます」「今決めないと危険です」と、考える時間を一切与えません。正当な工事であれば、見積もりの提示や検討期間の確保があって当然です。
本物はこう来る——正規の法定点検の特徴
詐欺の手口と比較するために、正規の電気設備点検(法定点検)の特徴を押さえておきましょう。
| 正規の法定点検 | 点検商法 | |
|---|---|---|
| 頻度 | 法令に基づき4年に1回以上 | 突然、不定期 |
| 事前連絡 | 書面で日時を案内 | 電話のみ、または突然訪問 |
| 身分証 | 作業員が携帯、提示可能 | 提示しない・できない |
| 費用 | 無料 | 高額な交換工事を契約させる |
| 対応の急がせ方 | 急かさない | 「今日中に」と即決を迫る |
この表に照らし合わせるだけで、不審な点検はかなり見分けやすくなります。
あなたの家が狙われているかもしれない——ターゲットの選び方

点検商法の業者は、無差別に電話しているわけではありません。事前に地域を下見し、訪問先を絞っている可能性が指摘されています。
業者がチェックしているとされるポイントには、以下のようなものがあります。
- 平日の日中に在宅していることが外からわかる
- 高齢者世帯と推測できる雰囲気がある(表札、生活の様子など)
- インターホンにすぐ応答し、会話が長くなりやすい
「マーキング」にも注意
玄関ドアやポスト、表札の近くに見慣れないシール・記号・書き込みはありませんか?配達員の目印の場合もありますが、下見の印である可能性も否定できません。
見つけたら写真を撮って記録し、心当たりがなければ早めに取り除きましょう。ご近所で同じような印がないか情報共有しておくのも効果的です。
今日からできる予防策
突然の「点検」には応じない
心当たりのない電話や訪問には、まず「確認して折り返します」と伝えましょう。自分で電力会社の公式窓口に問い合わせれば、本物かどうかはすぐにわかります。
その場では絶対に契約しない
どんなに不安をあおられても、即決は禁物です。「家族と相談します」「他社の見積もりも取ります」と伝えてください。正当な業者であれば、それを拒む理由はありません。
法定点検のスケジュールを把握する
4年に1回の無料法定点検がいつ頃予定されているか、事前に届く書面を保管しておきましょう。正規のスケジュールを知っていれば、不審な連絡にすぐ気づけます。
玄関まわりの環境を整える
防犯カメラやセンサーライトが設置されている家は、「記録が残る」「対策済みの家だ」という印象を与え、下見の段階で敬遠されやすくなります。防犯ステッカーも、カメラやライトとの併用で抑止効果が高まります。
家族と情報を共有する
特に離れて暮らす高齢のご家族がいる場合は、こうした手口があることを事前に伝えておくことが最も大切な予防策のひとつです。
契約してしまった場合の相談先
もし契約してしまっても、あきらめる必要はありません。早めの相談が解決への近道です。
消費生活センター(契約・解約・返金)
訪問販売の契約は、書面を受け取った日から8日以内であればクーリング・オフが可能です。消費者ホットライン 「188(いやや!)」 に電話すれば、最寄りの消費生活センターにつながります。
警察(身の危険・脅し・しつこい訪問)
居座られた、脅された、再訪が怖いといった場合は、警察相談専用電話 「#9110」 に連絡しましょう。身の危険を感じるときは迷わず 110番 です。
おわりに
「点検です」という一言には、私たちの警戒心を解く力があります。だからこそ、正規の点検がどのように行われるかを知っておくことが何よりの防御になります。
突然の電話や訪問にはまず立ち止まる。急かされても即決しない。そして、少しでもおかしいと感じたら一人で判断せず、家族や消費生活センターに相談する。このシンプルな心がけだけで、被害を防げる可能性は大きく変わります。
この記事が、あなたとあなたの大切な方を守る一助になれば幸いです。